人間の短期記憶が保持できる時間は、わずか数十秒です。
電話番号を教えてもらい、メモしようとした瞬間に数字が消えた。上司から3つの指示を受けたのに、気づけば1つしか残っていない。そんな経験のある方は多いのではないでしょうか。
これは記憶力が悪いのではありません。短期記憶の仕組みが、もともとそうなっているのです。
この記事では、短期記憶の定義・容量の限界・弱いと感じる原因から、日常でどう使いこなすかまでを整理します。「鍛えよう」と意気込む前に、まず仕組みを知ってください。それだけで、対策がずっと現実的になります。
この記事の執筆・監修
浦地純也(うらち じゅんや)
速読メソッド「GSR」講師 / 株式会社ManaBeラボ 代表取締役

- 株式会社ManaBeラボ代表取締役
- 中学校、高等学校理科教員免許
- 国際ジェネラティブチェンジ協会ジェネラティブトランス修了資格
- カリフォルニア大学発祥の心理学指導者資格
2013年、高知大学で理科教員免許を取得し、公立の高等学校で2年間理科教師として働く。その後速読に感銘を受け愛知県で速読教室と学習塾を開校。
その後、スタンフォード大学心理学博士のギリガン先生と出会い、「瞑想状態×速読」を用いた新しい速読メソッド【GSR(Generative Speed Reading)】をワールドクラスパートナーズ株式会社と開発。
2019年には、「人生を変える速読法 GSR」を出版。2025年までの10年間で44,000人以上への速読指導の実績。現在もオンラインで全国の人々へ向けて活動中。
短期記憶とは(数十秒で消える一時メモ)

短期記憶とは、見聞きした情報を数十秒間だけ一時的に保持する記憶の仕組みです。脳の中のすぐ消える作業台だと思ってください。
長期記憶のように「数年前の出来事を今でも覚えている」という話とは別物です。短期記憶はあくまで今この瞬間の処理を支える一時メモです。
短期記憶の保持時間は数十秒
脳科学辞典によると、短期記憶の保持時間は数十秒程度とされています。
何かを見たり聞いたりした情報は、短期記憶という一時的な場所に入りますが、そのままにしておくと数十秒で消えてしまいます。会議中にさっき出た数字をそのまま覚えていようとしても、話が進むうちに消えていくのはこのためです。
繰り返し頭の中で唱えたり、メモに書き出したり、何らかのアクションを取らない限り、情報はほぼ確実に消えます。
一度に覚えられる量には限界がある(マジカルナンバー)
保持時間だけでなく、容量にも限界があります。
認知心理学者のジョージ・ミラーが1956年に発表した研究によると、短期記憶が一度に扱える情報の単位(チャンク数)はおよそ7±2とされています。これが「マジカルナンバー7」と呼ばれるものです。近年ではより少なく、4前後とする説も出ています。
たとえば「0339482710」という電話番号を一字ずつ覚えようとすると10個の情報になり、容量を超えやすい。ところが「03-3948-2710」と意味のかたまりで捉えると、3つのチャンクに収まります。容量は変わらなくても、扱い方で実質的に入る量が変わるのです。
電話番号や指示をすぐ忘れるのはなぜか
「さっき聞いたのにもう思い出せない」——その原因は、短期記憶の容量と保持時間の両方の限界に達したとき、新しい情報が古い情報を押し出すからです。
重要なのは、この場合「忘れた」のではなく、「最初から長期記憶に入っていなかった」ということです。
長期記憶に移るためには、繰り返し想起したり、感情を伴ったり、意味づけをしたりするプロセスが必要です。それがなければ、数十秒の一時保存が終わった時点で情報は消えます。「なんで覚えていないんだろう」と自分を責める前に、脳がそういう設計になっていると理解してください。
短期記憶とワーキングメモリの違い

短期記憶と混同されやすい言葉が「ワーキングメモリ」です。似ているようで、役割が異なります。
短期記憶は「保持」、ワーキングメモリは「保持しながら作業」
短期記憶は、情報を一時的にためておく「箱」のようなものです。一方、ワーキングメモリはためた情報を操作・処理しながら使う「作業台」です。
たとえば、暗算をするとき。「13×4=52」を計算する過程で、「13」「4」という数字を頭に置きながら、掛け算という処理を同時に行います。これがワーキングメモリの働きです。短期記憶は「数字を保持する」部分、ワーキングメモリは「保持しながら計算する」全体のプロセスを指します。
会話中に「さっき相手が言ったことを覚えつつ、返答を考える」という行為も、ワーキングメモリの仕事です。
ワーキングメモリの詳しい仕組みや鍛え方は、別の記事で改めて解説します。
短期記憶が弱いと感じる原因
「私は短期記憶が特別弱い」と感じている方も多いのですが、多くの場合は能力の問題ではなく、記憶が入りにくい状態になっているだけです。
注意がそれている/情報が多すぎる/不安・睡眠不足
短期記憶に情報が入るには、まず注意が向いていることが必要です。これを記銘と呼びますが、記銘の段階で注意がそれていると、情報はそもそも短期記憶にすら入りません。
たとえばスマホを見ながら話を聞いていると、画面に注意が分散して話の内容が記銘されない。後から「全然覚えていない」のは当然です。これは意志の問題ではなく、注意のリソースが有限だからです。なぜ集中できないのかについての原因と対処も参考にしてみてください。
また、情報量が多すぎると短期記憶の容量がすぐに埋まります。一度に大量の指示を受けたとき、最初のほうが抜け落ちるのは容量オーバーのサインです。
さらに、不安や緊張があるときや、睡眠不足のときは脳のパフォーマンス全体が下がり、短期記憶の働きも落ちやすくなります。「最近物覚えが悪い」と感じるなら、まず睡眠と注意の向け方を見直すことが先決です。
短期記憶を活かす・鍛える方法
短期記憶の鍛え方を探している方に、正直に言います。短期記憶そのものの容量を劇的に増やすトレーニングというのは、今のところ存在しません。
それよりも、限られた容量を賢く使う工夫と、消える前に情報を逃がさない習慣のほうが、ずっと実用的です。
チャンク化(意味のかたまりにまとめる)
短期記憶の容量が限られているなら、1チャンク当たりの情報量を増やすのが有効です。これがチャンク化という考え方です。
たとえば、以下のにアルファベットが14個並んでいます。
nECsONYtOSHIBA
この並びをすべて正確に覚えるのは大変ですが、家電メーカーの「NEC」「SONY」「TOSHIBA」の3チャックであることに気付くとどうでしょう?
同じ情報量でも、自分が持っている知識を活用して意味のかたまりに分けるだけで扱いやすさが大幅に変わります。
仕事の指示も「3つのポイントがある」と前置きして受け取ると、項目間のまとまりが生まれてチャンク化されます。メモを取るときも「何が言いたい内容なのか」を意識してまとめると、情報が整理されやすくなります。
消える前に使う・長期記憶へ送る
短期記憶は数十秒で消えます。消える前に使う——これが最も確実な対処法です。
具体的には、聞いたらすぐメモする、声に出して復唱する、頭の中で素早く言い直す(即時想起)などが有効です。これらは短期記憶の内容を長期記憶へ送るためのアクションです。
「あとでまとめてメモしよう」「覚えているはずだから大丈夫」は危険です。数十秒の壁が来る前に外に出すことを習慣にするだけで、「すぐ忘れる」ミスは減ります。長期記憶への定着の詳しい方法は、別の記事で解説します。
鍛えるより、容量を奪うノイズを減らす発想
短期記憶が弱いと感じるとき、多くの場合は容量そのものが少ないのではなく、容量を奪うノイズが多すぎる状態です。
雑念・マルチタスク・気になることを頭に抱えたままの状態では、短期記憶の枠が埋まっています。大事な話を聞くときにスマホを伏せる、会議前に懸案事項をメモに書き出して頭を空にするといった枠を空ける行動が、体感的な記憶力の改善につながります。
短期記憶の容量そのものを増やすより、限られたスペースを占有してしまう余計なものを減らす発想で日常を見直してみてください。
内声化をやめると、短期記憶の枠に余裕ができる
余談として、一つ紹介しておきたいことがあります。
文章を読むとき、頭の中で声に出して読んでいませんか。これを内声化といいますが、内声化は脳のワーキングメモリにある「音韻ループ」を常に占有します。音韻ループが塞がった状態では、読んだ内容を処理する容量が削られてしまいます。
内声化を減らして視読(目で直接意味を取る)できるようになると、読んだ内容の定着が改善しやすくなります。内声化の具体的なアプローチは内声化は止めようとするほど増えるで詳しく解説しています。ここまで来ると、読む速さとインプットの質を同時に上げる話になってきますが、そのトレーニングに関心のある方は、記事末尾の無料講座案内もご覧ください。
短期記憶についてよくある質問
- 短期記憶が悪いのは発達障害が原因ですか?
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短期記憶が弱いこと自体はさまざまな要因で起こります。睡眠不足・ストレス・マルチタスク・注意の分散など、誰にでもある日常的な原因が多いです。ただし、日常生活に大きな支障が出るほどの困難が続く場合は、専門家に相談することをおすすめします。記事で紹介した状況的な原因を試してみて、改善が見られない場合は医療機関で確認してみてください。
- 加齢で短期記憶は落ちますか?
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加齢とともに短期記憶の処理速度は低下する傾向があります。ただし、これは「急に何も覚えられなくなる」という話ではなく、ゆるやかな変化です。チャンク化・即時メモ・ノイズを減らす工夫は年齢に関係なく有効で、習慣を整えることで実用上の支障はかなり軽減できます。
- 短期記憶を増やすアプリは効きますか?
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脳トレアプリの多くは「そのゲームが上手になる」効果はありますが、日常の記憶力に転移するかどうかは科学的に懐疑的な見方が多いです。短期記憶の容量自体を大きく増やすことは難しく、それよりも生活習慣(睡眠・注意の向け方・チャンク化)の改善のほうが実用的な改善につながります。
- 覚えた直後に忘れるのは異常ですか?
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異常ではありません。短期記憶の保持時間は数十秒が上限で、長期記憶へ移すアクションがなければ消えるのが仕組みです。「覚えた直後に忘れる」のは脳が正常に動いているサイン。問題は長期記憶へ転送する習慣がないことであり、即時メモ・繰り返し想起などで解消できます。
まとめ
短期記憶は、数十秒・7個前後という限界を持つ一時メモです。「すぐ忘れる」のは能力の問題ではなく、脳がそういう設計になっているだけです。
大切なのは、限界を嘆くのではなく、限界を前提に使いこなすことです。チャンク化で容量を有効活用し、消える前に外に出す習慣をつけ、ノイズを減らして枠を空ける——この3つを日常に組み込むだけで、体感的な記憶力は変わります。
短期記憶に入った情報をどう長期記憶に定着させるかは、記憶の質そのものに関わります。さらに踏み込んで学習やインプットの効率を上げたい方へ。





