新しい仕事を覚えるとき、誰もが最初にやることがあります。
メモを取ることです。
それなのに、
- 後で開いた自分のメモが役に立たない
- 同じことを上司に二度三度と質問してしまう
- 書いているのに仕事が覚えられない
そんな経験はありませんか?
じつは、これは書く速度や記憶力の問題ではありません。メモの「目的」と「設計」がずれているだけです。
本記事では、仕事を早く覚える人が無意識にやっているメモの取り方を脳の仕組みと一緒に整理しました。
この記事の執筆・監修
浦地純也(うらち じゅんや)
速読メソッド「GSR」講師 / 株式会社ManaBeラボ 代表取締役

- 株式会社ManaBeラボ代表取締役
- 中学校、高等学校理科教員免許
- 国際ジェネラティブチェンジ協会ジェネラティブトランス修了資格
- カリフォルニア大学発祥の心理学指導者資格
2013年、高知大学で理科教員免許を取得し、公立の高等学校で2年間理科教師として働く。その後速読に感銘を受け愛知県で速読教室と学習塾を開校。
その後、スタンフォード大学心理学博士のギリガン先生と出会い、「瞑想状態×速読」を用いた新しい速読メソッド【GSR(Generative Speed Reading)】をワールドクラスパートナーズ株式会社と開発。
2019年には、「人生を変える速読法 GSR」を出版。2025年までの10年間で44,000人以上への速読指導の実績。現在もオンラインで全国の人々へ向けて活動中。
仕事のメモは「覚えるため」ではなく「脳の作業机を空けるため」

「メモは覚えるために取るもの」——多くの人がそう思っています。実はここに、最初のつまずきがあります。
仕事を早く覚える人ほど、メモを「覚えるための道具」とは捉えていません。彼らが使っているのは、もっと別の視点です。
そもそも、なぜ仕事でメモを取るのか
メモの本当の役割は「脳の作業机を空けること」です。
人間の脳には、ツァイガルニク効果という性質があります。終わっていないタスクや言われたばかりの指示を、脳は無意識に記憶し続けようとして、その分だけ処理能力を消耗していくのです。
GTD(Getting Things Done)を提唱したデビッド・アレンも、この「外部記憶」の原則を仕事術の土台に置いています。頭に抱えている情報を紙やアプリに書き出すと、脳は「もう覚えていなくていい」と判断し、目の前の作業に集中できる状態に戻ります。
実際、あるエンジニアの方は、思いついたタスクをすぐにアプリへ入力して「忘れてOK」と割り切る習慣を持ってから、仕事中の頭の中がぐっと軽くなったと言っています。
メモは記憶のためではなく、脳の余白を作るための道具なのです。
「全部書く」がうまくいかない理由
ここで一つ、新人の頃にありがちな失敗があります。
上司の話を一言一句書き留めようとして、結局あとから読み返しても何が大事だったのか分からないパターンです。
これには、脳の処理上のはっきりした理由があります。
メモを取るというのは、頭の中で以下の複数のステップを同時に走らせる作業です。
- 聞き取る
- 重要なポイントを見分ける
- 自分の知識とつなげる
- 言い換える
- 書き起こす
全文を書き取ろうとすると、このうち「書き起こす」だけが脳のリソースを占領してしまい、肝心の理解と記憶が抜け落ちてしまうのです。
ここで思い出したいのが、有名なパレートの法則(80対20の法則)です。
パレートの法則とは
パレートの法則とは、「全体の結果の80%は、全体の20%の要素から生まれる」という経験則のことです。
この数値から「80:20の法則」とも呼ばれます。
またこれを組織や集団に当てはめてた「働きアリの法則」や「2:6:2の法則」もこれに基づく考え方です。
具体的には…
- 売上の80%は、顧客全体の20%から生まれている
- 売上の80%は、全商品のうち上位20%から生まれている
2:6:2の法則なら…
- 組織の上位20%の人が自発的に動き、高い成果を上げる
- 組織の中位60%の人が平均的なパフォーマンスを発揮する
- 組織の下位20%の人が意識が低くサボりがち
共通しているのは、ごく一部の要因が全体への大きな影響を生み出しているということ。言い換えれば、すべての要素が等しく重要というわけではないということです。
そして面白いことに、本当に重要な20%だけを残して他を切り離しても、時間が経つとその残った人員のなかから2:6:2が生まれてしまうと言われています。
ビジネスや時間管理の場面でも「重要な2割に集中する」という考え方の根拠としてよく使われます。
仕事の話・会議・指示——どの場面でも、価値の8割は2割の情報に集中しています。メモに必要なのは「その2割だけを残す」感覚であって、全部を残すことではありません。
メモを取っているのに仕事が覚えられない3つの原因

ちゃんとメモは取っているのに、なぜか仕事が頭に入ってこない
これは、まじめに働いている人ほど抱える悩みです。原因は意志や記憶力ではなく、メモの取り方が以下の3つのパターンに当てはまっているからです。その原因を1つずつ見ていきましょう。
原因1|全文を書き取ろうとしている
「全部書いておけば、後で何とかなる」——そう思って指示や説明を写経のように書き写していないでしょうか。
プリンストン大学とUCLAの研究(Mueller & Oppenheimer, 2014)では、講義の内容をPCで全文入力したグループより、手書きで要約したグループのほうが、概念を理解するテストの成績が有意に高いという結果が出ました。
手書きは速度に限界があるため、自然と「自分の言葉で言い直す」という処理が起きます。逆にPC入力組は、全部を打てるがゆえに思考が止まってしまうのです。
現代ではデジタル化が進み、どんどん便利なツールが生まれていますが、技術的に保存できる情報量と実際に覚えられる量は比例しないのです。
原因2|キーワードでなく文章で書いている
2つ目は、メモを文章で書きすぎてしまうパターンです。
上手にメモを取る人は、聞いたことをそのまま文章で残しません。後で見返したときに記憶が一瞬で蘇るキーワードだけを書いています。
たとえば「明日の14時までに営業部の田中さんへ資料を送ってください」と言われたとき、そのまま書くと長文になりますが、本当に必要なのは「明日14時/営業 田中/資料を送る」の3要素です。
逆に、新人がやってしまいがちなNGパターンはこちらです。
- 日付やタイトルを書かない
- 聞いた順に言葉を時系列で並べる
- 後で見たとき何のメモか分からない
これでは、せっかくの情報がページに散らかったままで、いざ使いたいときに見つかりません。
原因3|書いた直後に見直していない
そして三つ目が、メモを取ったあと一度も開かないまま次の業務に進んでしまうパターンです。
学んだ記憶は、エビングハウスの忘却曲線が示すように、最初の数時間で急速に失われていきます。
エビングハウスの忘却曲線
エビングハウスの忘却曲線とは、「人間の記憶は時間の経過とともに急激に薄れるため、効率よく記憶するには最適なタイミングでの復習が不可欠である」と示す法則です。

完全に忘れてからでは、もう一度頭に入れるために最初と同じくらいの時間と労力がかかってしまいます。
ですが、まだ記憶が残っているうちに復習すると、少ない労力で「覚えなおし」ができます。こうした復習を繰り返すことで忘却のスピードが緩やかになり長期的な記憶へと定着していくのです。
新しい指示や手順は、書いた直後にもう一度ざっと見返しておかないと、長期記憶へ移っていく前に消えてしまうのです。「メモはしたから安心」と思ったその瞬間に、内容の半分が手元から抜け落ちている。そういうイメージで考えてみてください。
メモは書いて終わりではほとんど機能しません。書いたあとに何をするかで、定着率が大きく変わります。
仕事が覚わるメモの取り方|今日から使える5つのコツ
ここからは、明日の朝から実践できる5つのコツを紹介します。
「書く前」「書く最中」「書いた直後」の順に並べてあるので、自分の業務フローのどこに穴があるかを思い浮かべながら読んでみてください。
コツ1|書く情報を絞る(キーワード主義)
まず最初の関門が、「何を書かないか」を決めることです。
仕事を覚えるのが早い人は、聞いたことを全部書きません。後で見返したときに記憶が引き出せる「キーワード」だけを書いています。
前章でも触れたパレートの法則のとおり、価値の8割は2割の情報に集中しています。「この2割はどこか」を選別する意識でメモを取ると、自然と書く量が減り、判断と理解に脳のリソースが回るようになります。
たとえば、上司から新しい業務を教わるとき。「最初にAをやって、次にBをチェックして、もし問題があればCに連絡して……」と長々書く代わりに、「① A → ② Bチェック → ③ NG時 C連絡」と矢印で残せば十分です。
固有名詞・数字・期限——この3つさえ押さえれば、文章で書かなくても後から自分で復元できます。
コツ2|5W1H+記号で構造化する
二つ目のコツは、メモの「形」をあらかじめ決めておくことです。
業務指示や打ち合わせの聞き取りには、5W1Hが便利です。
誰が・何を・いつまでに・どこで・なぜ・どうやって
この6つの欄を頭の中に常備しておくと、抜け漏れを防げます。「いつまでに?」「誰がやるの?」と後から上司に聞き直す事態が、ぐっと減るはずです。
コツ3|コーネル式ノート法で「書く場所」を決めておく
書く内容を選んでも、どこに書くかが決まっていないとページが散らかります。そこで使えるのが、コーネル大学のWalter Pauk氏が1989年に開発した「コーネル式ノート法」です。

1ページを3つに分けます。
- 右の大きな欄(ノート欄):説明された詳細・指示の内容をそのまま書く
- 左の細い欄(キュー欄):右の内容に対する自分のキーワード・疑問・連想を書く
- 下の欄(サマリー欄):そのページの要約・次にやる行動を1〜2行で書く
もともとは学生向けの講義ノート術ですが、業務説明や会議の議事録にもそのまま使えます。場所が決まっているだけで、書きながら頭の中の情報も自然と整理されていきます。
コツ4|図・矢印・略字で書く速度を上げる
それでも追いつかないときは、「絵で残す」という選択肢を持つと楽になります。
テキサスクリスチャン大学の研究(”The Effect of Note-Taking Modality on Offloading and Memory”)では、手書きはキーボード入力より自動的な動作で、聞く・理解する側に余力を残せると報告されています。ただし、その手書きでも文字量が多すぎると、結局は脳の処理が追いつきません。
そこで効くのが、図解と略字です。組織の関係は四角と矢印で、手順はフローチャートで、対立は両矢印(⇔)で。文字で書くより、図・記号で並べたほうが、書く時間も読み返す時間も短くて済みます。
- ◯:賛成/OK/合意
- ✕:NG/却下
- ↓:結論
- ⇔:対立する意見
- →:次の行動・誰がやるか
- ★:重要・後で確認したい
最初は意識して使う必要がありますが、これらの記号を自分のスタイルとして定着させていきましょう。
コツ5|書いた直後の「3分見直し」で記憶を固定する
最後のコツは、書いた直後にもう一度ペンを置いて、メモを眺めることです。
東京大学の酒井邦嘉教授らが2021年に発表した研究では、紙の手帳にスケジュールを書いた人は、記憶や言語の処理に関わる脳の領域の活動が定量的に高くなり、想起テストでも紙の手帳組が優位という結果が出ました。
書いた直後に内容を見返すことで、紙の上の空間的な手がかり(このページの右上に書いた、など)が記憶に焼きつき、後から引き出しやすくなるのです。
さらにおすすめなのが、「60秒アウトプット」という方法です。打ち合わせや業務説明の直後、60秒だけ別の紙にメモを開かずに「覚えていること」を書き出してみてください。たったこれだけで、散らかった情報が頭の中で構造化され、長期記憶への移行が始まります。ノートを開いて答え合わせするのは、書き出したあとです。
メモを仕事の習慣に変える3ステップ
5つのコツを使ってその日のメモが整っても、それで終わりにすると翌週には半分以上が抜け落ちます。仕事を覚えるスピードを本当に上げる人は、ここから先にもう一段の習慣を置いています。3つのステップで紹介します。
ステップ1|翌朝の3分見直しで長期記憶に転送する
最初のステップは、翌朝の3分です。
東洋経済の記事でも紹介されているように、「夜の学習+睡眠+翌朝の復習」をセットにすると、記憶の保持率が大きく上がることが報告されています。睡眠中に脳は前日に入った情報を整理しており、翌朝はその整理されたものを「もう一度引き出してみる」絶好のタイミングなのです。
ここでぜひ試してほしいのが、ウィスコンシン大学の研究でも有効性が示されている「ノートを見ずに思い出す」方法です。前日の業務内容を、メモを開く前に1分だけ思い出してから答え合わせをしてみてください。「あれ、田中さんへの提出期限っていつだったっけ」と詰まった箇所こそ、まだ記憶になっていない部分です。詰まった箇所だけメモを見て補強すると、抜けていたピースだけが集中的に長期記憶に移ります。
ステップ2|「行動リスト」に書き直す(次に何をするか)
二つ目は、メモを「行動リスト」に変換することです。
私が普段から発信していることなのですが、学んだ知識は、行動に移してはじめて自分のものになります。インプットしたまま使わない知識は、頭の中でヘドロのように溜まっていくだけで、仕事の現場で取り出せる「活性知識」になりません。これはメモも同じで、書きっぱなしのメモは数日でヘドロ化していきます。
メモを開き直すときに、こう問い直してみてください。「このメモから、明日の私は何をするのか?」たとえば「議事録:来期の予算は3部門で配分する方針」というメモなら、「明日朝イチで、私の担当部分の概算を出してA4にまとめる」が行動リストになります。書き方が変わるだけで、メモは記録から手順書へと変わります。
「読んでも行動できない」「学んだのに仕事が変わらない」という悩みをお持ちなら、本を読んでも行動できない3つの落とし穴と今日から試せる設計も参考になります。
ステップ3|2言アウトプットでその日のうちに声に出す
三つ目は、その日のうちに声に出す「2言アウトプット」です。
打ち合わせや業務説明が終わった直後、自分にこう問いかけてください。
- 「要するに、今日のポイントは〇〇だった」
- 「だから、明日から××という行動をする」
この2文を、声に出して言ってみるだけで構いません。書いたメモを記憶へ、記憶を行動へつなぐ最短ルートとして使えます。通勤途中の電車の中でも、トイレに立ったタイミングでも、頭の中で唱えるだけでも効果があります。
ここまでは「メモの取り方・見直し方の工夫」の話でした。ただ、視点を一段引いてみると、そもそも教わる内容や資料を読み取るスピード自体が上がれば、同じ時間で吸収できる量は大きく変わります。読む・聴くスピードを底上げするトレーニング(速読)も、仕事の覚えを早くする選択肢の一つです。速読の仕組みや原理を知りたい方は速読とは?|「怪しい」と感じる理由と本物の速読の見分け方からどうぞ。
仕事のメモの取り方についてよくある質問
- 手書きとデジタル、結局どちらがいいですか?
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学んだ内容を頭に残したい場面は手書きが優位です。プリンストン大学などの研究で、手書き群は要約が強制されるため概念理解の成績が高いと示されています。一方、タスク管理や検索性が必要なものはデジタルが向いています。「思考・学び=手書き/タスク・予定=デジタル」と用途で使い分けるのが現実的です。
- メモ帳とノート、どちらを選べばいいですか?
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持ち運ぶ場面が多いならポケットサイズのメモ帳、まとめて見返したいならA5以上のノートが基本です。1テーマ1ページで管理するならノートが扱いやすく、瞬時に書き留めたい現場ではメモ帳が便利です。両方持って、後でノートに転記する人も少なくありません。
- 上司の話が速くて追いつかないときはどうすればいいですか?
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全部を書こうとせず、5W1Hと記号で骨組みだけ残してください。聞き取れなかった箇所には「★」や「?」だけ付けて先に進み、話が一段落した時点で「すみません、〇〇の部分をもう一度お願いします」と聞き直すのが確実です。流れを止めないことを最優先にすると、後から補える分量が増えます。
- 接客や現場仕事でメモを取る暇がないときは?
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業務中はキーワードだけ手の甲やポケットメモに走り書きし、休憩や帰宅直後の3分でしっかり書き起こす方法が有効です。スマホの音声メモを使えば、移動中でも気づきをそのまま録音できます。「その場で完璧に」より「フレッシュなうちに書き直す」が現実的な解です。
- 同じことを何度も上司に質問してしまうのを防ぐには?
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教わった業務を「自分専用マニュアル」としてまとめ直す習慣を作ると、再質問が激減します。コーネル式ノートのサマリー欄に「次に同じ業務が来たらまずこれを開く」と書いておくのがおすすめです。質問前にそのページを開く一手間が、自走できる人材への分かれ目になります。
- 字が汚くて、自分でも読み返せないメモになってしまいます。
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読み返せる範囲なら、字の美しさは気にしなくて構いません。キーワード主義に切り替え、文字数自体を減らすほうが効果的です。どうしても気になる場合は、汚い字で書いたものを翌朝の3分見直し時にきれいに転記する習慣を作ると、見直しと清書が同時に進みます。
まとめ
仕事のメモが機能していないと感じるとき、原因はたいてい次の3つに集約されます。全文を書き取ろうとしている/キーワードでなく文章で書いている/書いた直後に見直していない、の3つです。
明日からの行動として、5つのコツを再掲します。
- 書く情報を「選ぶ」(パレートの2割を残す)
- 5W1H+記号で構造化する
- コーネル式で「書く場所」を決めておく
- 図・矢印・略字で書く速度を上げる
- 書いた直後の3分見直しで記憶を固定する
そして、その日のうちに「2言アウトプット」、翌朝に3分見直し、メモを「行動リスト」に書き直す——この3ステップで、書いた内容が記憶と行動につながります。
メモは記録ではなく、脳の余白と行動を作る道具です。明日の打ち合わせから、まず一つだけ試してみてください。
私が教えている速読法GSRは、目を速く動かす技術ではなく、脳の処理パターンを変えるトレーニングです。仕事のインプット効率に課題を感じているなら、一度見てみてください。




